リクルートキャリアの「Pマーク」取消しについての概要と見解

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リクルートキャリアのPマーク取消しについての概要

2019年8月1日、就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアは、就職活動中の学生が内定を辞退する確率(内定辞退率)を人工知能(AI)で予測したデータを、35社に販売していたと発表しました。

同社が内定辞退率を予測したデータを販売していたサービスは、「リクナビDMPフォロー」と呼ばれるものでした。

これは、

  1. 前年度の学生のリクナビ内での行動履歴をもとに独自のアルゴリズムを作成
  2. 顧客企業から提供された応募者の個人情報(2019年2月以前はCookie、3月以降は氏名など)をリクナビ内の情報と突合することで当該応募者を特定
  3. チェックリストと監査計画書の準備が必要になる
  4. その学生の情報を上記アルゴリズムで解析することで内定辞退率を予測
  5. 顧客企業にその予測データを販売する

という仕組みのサービスでした。

同社は、2018年6月の「リクナビ2020プレサイト」の開設時に、当該サービスの利用目的を同サイト内に記載していましたが、プレサイト開設時のプライバシーポリシーには第三者提供の同意を求める記載はなく、2019年3月のプライバシーポリシー改定までの間、本人の同意を得ないまま当該予測データを顧客企業に提供していました(※)。

本件で内定辞退率の算出対象となった就活生は9万5590人、同意なく個人情報を第三者提供された就活生は2万6060人に上るとのことです。

この問題を受け、同社は2019年8月4日付で当該サービスを廃止、同月26日には社長による謝罪会見を実施しました。

また、個人情報保護委員会から2度の是正勧告と指導、厚生労働省からは東京労働局を通じ職業安定法に基づく行政指導が行われ、加えて2019年11月14日には、日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)から、個人情報の取扱いに不備があったとしてプライバシーマーク付与の取り消し処分を受けることとなりました。

※個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律に基づく行政上の対応について」(令和元年12月4日付)

タイムライン
  • 2018/03/01
    「リクナビDMPフォロー」による内定辞退率の予測データ販売を開始
  • 2018/06/01
    「リクナビ2020プレサイト」開設
  • 2019/03/01
    「リクナビ2020」オープン
  • 2019/07/31
    個人情報保護委員会から学生への説明が不十分であるという指摘を受け、販売休止を決定
  • 2019/08/05
    「リクナビDMPフォロー」サービス廃止を発表
  • 2019/08/20
    学生本人のデータが企業に提供されたものであるかを確認できる特設サイト開設を発表

  • 2019/08/26
    個人情報保護委員会より是正勧告・指導を受けたことを発表。社長謝罪会見
  • 2019/09/06
    東京労働局より職業安定法に基づく行政指導を受けたことを発表
  • 2019/11/14
    プライバシーマーク付与の取消措置を受けたことを発表

  • 2019/12/04
    リクルートと共に個人情報保護委員会により是正勧告・指導を受けたことを発表
  • 2019/12/11
    リクルートと共に東京労働局より行政指導を受けたことを発表

原因

本件の原因についてリクルートキャリアは、「ガバナンス不全」と「学生視点の欠如」という2点を挙げている。

本件の影響についてコンサルタントの見解

本件は、あらかじめ同意を得ていた個人情報の利用目的の範囲を超えて、利用をしてしまったというものです。
就活サイトの中でも最大手とされる「リクナビ」の運営会社が独自に学生の内定辞退率を予測していたこと、そして、その予測データを一部の大手企業に販売していたということで、就活生を含め日本社会全体に大きな衝撃をもたらす事件となりました。

今回、JIPDECは3例目となるプライバシーマーク付与の取消を行いました。

このような事態となった要因としては、リクルートキャリアの個人情報保護の体制に組織的な問題があると判断されたためではないかと思います。

具体的には、リクルートキャリアは組織全体として個人情報保護の意識が低い状態にあったのではないでしょうか。

同社はプライバシー認証取得企業であり、かつ、人材サービス業務を行う企業です。そのため、もともと個人情報に対する意識は高かったはずです。
このような事件が起こった背景には、個人情報保護の意識が従業員の一部で止まっており、会社全体に共有できていなかった、あるいは、就活生の個人情報を日々取り扱っていく中で個人情報保護の取組みが形骸化してしまい、個人情報保護の意識が薄れてしまっていた、という事が考えられます。

個人情報を取り扱う上で忘れてはならないのは、本人の気持ちになって考える想像力を持つということです。「自分がされて嫌なことは、ほかの人にしない」とは基本的な事ですが、自分が個人情報の本人だったとして「嫌だな」と感じる取扱いをしないように心がければ、おのずと個人情報を取り扱う際の意識は変わってくるでしょう。

本件では、個人情報とは慎重に取り扱うべき情報であり、その情報を使って内定辞退率を予測・販売をした場合、本人はどのような気持ちになるのかという事を想像して考えるということを実施すべきでした。

想像力を働かせて考えることができていたならば、このようなサービス自体許容されるものであるのか、仮に許されたとしても社会の反応はどういったものになるのかということについて、サービス提供前に十分に検討することができたのではないでしょうか。

本件は、2020年の個人情報保護法の改正において、本人の企業に対する請求等の要件緩和やCookie使用による個人情報の取得などの点で大きく影響を与える事件となりました。法改正によって企業の責務は今よりも拡充されると考えられますが、本件のような事態を引き起こさないようにするには、法の規制よりも、当事者である企業並びに従業員の日々の意識が効果的です。法の改正内容にも留意しつつ、適切な対処をしていきましょう。

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