さまざまな産業におけるIoTの普及により、「サイバーフィジカルシステム(CPS)」が注目されています。
情報化社会を支える新しい技術として今後もさらに普及が進むと思われるサイバーフィジカルシステムですが、具体的にどのような技術なのかご存じでしょうか。
この記事ではサイバーフィジカルシステムの仕組みや事例を踏まえて詳しく紹介します。
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サイバーフィジカルシステム(CPS)とは?
CPSとはデータとデジタル技術を活用した最適化のことであり、CPSと略されることが多い技術です。
ここまでは少し抽象的な説明だったので、具体例として自動車の自動運転を使って説明しましょう。
人が自動車を運転するのではなく、無人の自動車を自動運転させるためには、走行中の自動車が障害物や前を走っている自動車にぶつからないように、物理世界におけるさまざまな情報を収集する必要があります。
これらの情報を収集するのが、自動車に備え付けられている各種センサーです。
センサーが自動運転に必要な情報を収取したあとで、その情報をAIやITシステムなどに受け渡します。この段階におけるAIやITシステムが、サイバーフィジカルシステムにおけるサイバー世界といっていいでしょう。サイバー世界におけるAIやITシステムが、データを分析して自動車をどのように動かすのか判断します。
そして分析されたデータに基づいて、物理世界の自動車の駆動系を操作します。
このような自動車の自動運転の一連の流れを実現しているのが、サイバーフィジカルシステムです。
サイバーフィジカルシステム(CPS)の仕組み
ここで一度、サイバーフィジカルシステムの仕組みを説明しましょう。
まず私たちが生活している物理世界における日々のあらゆる活動をモニタリングして、データを収集します。収集されたデータは物理世界における活動としてサイバー世界にフィードバックされます。
サイバー世界では、物理世界で得られたデータを分析して、物理世界ではできない検討や最適解探索などを実施。そして得られた最適化の結果を、逆に物理世界にフィードバックするわけです。
要するに以下の4つのサイクルを回転させることを意味します。
- 物理世界におけるデータの収集
- サイバー世界へのデータの蓄積
- サイバー世界におけるデータの分析
- データの分析結果を物理世界へフィードバック
これら1から4プロセスを繰り返すことこそが、サイバーフィジカルシステムの仕組みといえます。
サイバーフィジカルシステム(CPS)が注目される理由
サイバーフィジカルシステムのような概念は、実はそれほど新しいものではありません。しかしIoTをはじめ、デジタル技術が急速に発達し、IT技術の普及と併せて注目を集めるようになりました。
サイバーフィジカルシステムのポイントは、サイバー世界におけるデータの分析の結果を物理世界までフィードバックさせることです。
先ほど紹介した自動車の自動運転の例で説明すると、センサーが自動車周辺の情報を収集して、AIやITシステムが収集したデータを分析します。
そしてそのデータの分析結果に基づいて、物理世界の自動車を操作するわけです。
この一連の流れによる自動運転は、人が経験や勘に基づいて運転するのではなく、極めて客観的に操作されます。
またIT技術が自動車のような単体製品の制御という枠組みを超えて適用されるようになってきたことも、サイバーフィジカルシステムが注目される要因となっています。
自動車の制御を通じて道路交通網全体に影響を与えるようになり、これはまさに社会インフラそのものを制御していると言っても良いでしょう。
またこのようなIT技術の活用のコストが低下してきたことも、サイバーフィジカルシステムの普及に欠かせない要素です。
コスト低下により、これまで検討されてこなかった医療や農業などの業界においても、サイバーフィジカルシステムの導入が検討されるようになり、この流れは今後も続いていくと予想されます。
サイバーフィジカルシステム(CPS)の事例
ここまででサイバーフィジカルシステムの概要や仕組み、注目される理由を解説してきました。
次にサイバーフィジカルシステムの具体的な導入事例について見ていきましょう。
IoTを活用したスマート工場
工場内にある設備や機器、部品、製品、作業者など様々なモノや人を対象にセンサーを設置して、データの収集や分析を行うことで生産性の向上を図っている工場のことをスマート工場と言います。
もともと工場での仕事の生産性は、熟練の職人の経験や勘に依存する傾向が強かったのですが、スマート工場の導入により、生産性を向上させる要因の客観的な把握と分析が可能となります。
これにより属人性の排除が可能となり、収集された情報をデジタルデータとして永続的に保存させることもできます。
フルデジタルオフィス
業務のすべてをデジタル化された状態となっているオフィスのことをフルデジタルオフィスと言います。 現在は、オフィスワークのデジタル化として、既にインターネット回線を利用したテレワークが普及していますが、これはフルデジタルオフィスの前段階の技術と言えます。
例えば、電話会議やWeb会議は複数人での双方向のコミュニケーションを実現させましたが、誰が誰に話しているのか、聞き手は話を聞いているのか資料を見ているのか、などの情報を把握しづらいというデメリットがありました。
そこで仮想空間におけるCGで表現されたアバターを用いることで、臨場感のある会議を実現できる技術が開発されました。
これは物理世界にいる社員のボディランゲージや位置関係を、サイバー空間上にリアルに再現して、より臨場感のある会議を実現させる技術です。物理世界にいる社員に特殊なデバイスを装着して動きを把握してサイバー空間上のアバターの動きに反映させます。
さらに認識した音声をリアルタイムで翻訳することで、言語の違いを意識することなく海外の拠点の社員同士のコミュニケーションを可能にしたり、アバターのとなりにテキストの吹き出しなどを表示させたりすることも可能です。
このようにオフィスにサイバーフィジカルシステムを導入することで、より緊密性のあるコミュニケーションが実現され生産性の向上を図れるわけです。
鉄道電気設備におけるスマートメンテナンス
JR東日本では、鉄道電気設備におけるスマートメンテナンスを導入しています。
これは常磐線や総武線などの約4000か所に無線のセンサーやカメラを設置して、電線の状態を画像として確認する技術です。
状態の判定はAIにより客観的に分析されます。このスマートメンテナンスの導入により、検査の負担を軽減して、社員の働き方改革の推進を目指しています。
まとめ
サイバーフィジカルシステムの推進は、生産活動の生産性向上と、物理世界で暮らしている人々の生活をより快適なものにすることを期待できます。
これまでには考えられなかった製品やサービスが登場することも予想されます。
モノづくりとITの双方を得意とする日本企業においては、今後の進化が楽しみな技術の一つとして期待されます。
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