助成金を利用したコンサルティングの落とし穴
Pマークや各種ISO認証を取得するには、決して少なくない費用が掛かります。
誤解を恐れず言えば、PマークやISO認証の取得は、売上に直接的に結びつくものではないだけに、その取得に掛かる費用はなるべく抑えたい、というのが各企業の率直な思いではないでしょうか。
その費用削減・抑制における手法の一つとして「助成金の活用」が挙げられます。
そもそも助成金とは?
助成金とは、一般的に厚生労働省が管轄している支援金を指します。
所定の条件を満たしていればどんな会社でも受給することができ、また、返済の必要もありませんので、大企業から起業したてのベンチャー企業まで、幅広い層が助成金制度を利活用しています。
そんな助成金ですが、厚生労働省管轄という性質上、従業員を雇用したり、育成・教育したりする際などに活動できるタイプのものが多く、2017年現在、実に50種類以上の助成金が、厚生労働省のWebサイトで紹介されています。
また、似たような制度として、補助金と呼ばれる支援金も存在します。
補助金は主に経済産業省が管轄しており、企業や研究機関におけるR&D(研究開発)やIT分野への投資など、特殊で専門的な分野への投資における支援を主軸としたものです。また、補助金の多くは公募制となっており、受給団体が審査によって選定されるケースがほとんどです。従って助成金と異なり、条件を満たせば必ず受給できる、というわけではありません。
コンサルティング会社による助成金の抱き合わせ戦略
条件を満たせば受給でき、返済も不要な助成金ですが、近年、Pマークや各種ISO認証の取得支援を手がけるコンサルティング会社の中には、それらの助成金を活用して、実質負担0円(ないしは非常に安い価格)でPマークや各種ISO認証が取得できることを打ち出している業者も存在します。
コンサルティングに掛かる料金は決して安いものではないため、少しでも負担が減らせるのであれば、取得を希望される企業にとっては朗報です。
しかし、中にはあまり正攻法とは言えない手法で助成金制度を活用したり、自社サービスを売り込むドアノック商材として用いたりと、健全とは言い難いコンサルティング会社が存在するのも事実です。
ここでは、コンサルティング会社が謳いがちな2種類の「やり口」をご紹介します。
気をつけたい「やり口」その1 Pマークと無関係な助成金の打ち出し
助成金を活用すれば、Pマークや各種ISO認証の取得に必要な経費と相殺し、実質0円で取得可能!・・・そんな謳い文句を掲げるコンサルティング会社も存在します。
一見すると非常に魅力的に映る内容ですが、取得に必要な経費と相殺できるほどの助成を受けられるという打ち出しには注意が必要です。
それらのコンサルティング会社は、特定の社労士と組んで、Pマークや各種ISO認証と全く関係のない助成金を多く申請し、それらを合計した結果、差し引き0円である、というカラクリである場合がほとんどです。
つまり、それらの助成金は、Pマークや各種ISO認証に掛かる取り組みを行っていようが行っていまいが、然るべき手順を踏んで申請すれば受給できた助成金であり、そこにPマークや各種ISO認証取得の取り組みは関与していない(にも関わらず、まるでPマークや各種ISO認証取得と抱き合わせのように打ち出している点が好ましくない)、というわけです。
むしろ、コンサルティング会社を介して別の社労士に業務を委託することになっている分、その手数料が割高になっている可能性すらあります。
そういったやり口をコンサルティング会社が提案してきた場合は、申請を予定している助成金の種類などを確認し、助成金の申請自体は、例えば会社として提携しているお抱えの社労士などに依頼するほうが、最終的には費用を抑えることが可能です。
気をつけたい「やり口」その2 研修や教育に伴う時間の架空計上
助成金の中でも利用しやすいのが、「従業員のキャリアアップのために一部研修費等を助成する」助成金です。
平たく言ってしまえば、◎名の従業員が◎時間を使って研修を受けた場合、その研修に用いた時間で時間給換算した合計金額を助成金として企業に助成する制度です。
Pマークや各種ISO認証取得における必要な費用は、大別すると「コンサルティング費用」と「審査費用」です。このうち、審査費用は対象にならないことが多く、基本的にはコンサルティング費用の何割かを助成金として申請する運びになります。
例えば、研修費用60万円、審査費用60万円、合計120万円がPマークを取得するために必要なお金として対象になるのは研修費用の60万円で、だいたい2/3が助成されると仮定すると、40万円が支給される計算です。
しかし、ここで注意すべきは、特にキャリアアップに関わる助成金の場合、支給されるのは受講した従業員の時間給である場合がほとんどである点です。
そして、Pマークや各種ISO認証取得において、数十万円の助成が可能なほど大規模な研修を実施することは極めて稀です。
強いて挙げるとするならば、下記のような手法が考えられます。
- 1. 実際に受講した時間以上の研修時間をもって申請する。
- 2. 実際に大人数、長期間の研修を実施する。
- 3. コンサルティング(お打合せや文書確認など)に費やした期間も研修時間として計上する。
助成金制度の利用にあたっては、提携の社労士が助成金の申請を行うケースがほとんどで、実際に申請が完了すれば制度上は問題ないと言えるかもしれませんが、万一、あらぬ嫌疑を掛けられた際、最もダメージを受けるのはその企業自身です。
健全と言い難い助成金利用の提案を受けた際は、慎重にその是非を検討する必要があります。
助成金の専門家による見解
上記のような助成金の活用について、助成金に詳しい「社会保険労務士法人 渡辺事務所」代表の渡辺俊一氏は次のように述べています。
BtoB事業を展開する多くの企業が、自社サービスのフックとして、または自社サービスとの抱き合わせ販売のような形で、助成金の利用を謳ったり、推奨したりしています。
しかし、上でも述べられているように、決して健全とは言い難い助成金の利活用を打ち出している企業も少なくありません。
一見すると回り道なようですが、PマークのことはPマークの専門家に相談する、助成金のことは助成金の専門家に相談することが、実は会社としてベストの答えにたどり着く近道と言えるかもしれません。
社会保険労務士法人 渡辺事務所 代表渡辺 俊一氏
2007年に大阪で「社会保険労務士法人 渡辺事務所」を創業。
各企業の独自文化や背景を踏まえたきめ細やかな提案と、ITを徹底活用したスピーディな業務姿勢が顧客の信頼を集め、全国で300社以上の企業との取引実績を有する関西屈指の社労士事務所となる。法人・個人を問わず、幅広い業務領域への対応が可能だが、とりわけ就業規則作成や助成金分野を得意とする。
最後に
冒頭でも触れたように、Pマークや各種ISO認証の取得に助成金を活用すること自体は可能ですが、適法かつ適正に利用しなければ、企業として少なくない代償を払うことになる恐れがあります。
もし、弊社のコンサルティングサービスにご興味をお持ちいただき、かつ、助成金制度にもご興味をお持ちの場合は、ぜひお気軽にご相談ください。
中立性を保つため、あくまで仲介に留まりますが、弊社として協業している信頼できる社労士をご紹介することも可能です。