企業の活動を支える従業員の雇用形態には、正社員、契約社員、派遣社員、パート・アルバイトなどがあります。雇用期間や雇用元などは違っても、企業の活動を支えるメンバーであることには違いありません。
とは言え、このうち派遣社員は、所属自体は派遣元企業です。
労働者派遣法の改正により、派遣先企業の派遣社員への教育は配慮・努力義務となりました。本記事では、派遣社員への教育はどこまで行えば良いのか、実施すべき内容、注意する点などを解説します。
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派遣社員の教育はどこまで実施するか
派遣社員に対しては、派遣先企業、派遣元企業の両方が教育を行う必要があります。それぞれの行うべき教育について説明します。
派遣先企業による教育
派遣先企業が行うべき教育は業務の遂行に必要な能力を付与するための教育です。「労働者派遣法第40条第2項」にて定められています。どこまで、という教育の程度については、派遣元の求めに応じて、派遣先企業の労働者と同様の訓練を実施することが一つの基準となります。
また、この教育実施に加えて派遣元企業が実施するキャリアアップの教育訓練に関しても、派遣社員が受講できるよう協力することが求められます。
派遣元企業による教育
派遣社員に対しては派遣元企業でも教育を実施することが定められています。その教育内容は、派遣社員がキャリアアップできることを目的とした内容および雇用する際に必要な教育訓練などです。
また、無期雇用の派遣社員に対しては、長期的なキャリア形成に役立つ教育を行う必要があります。派遣元企業が行うキャリアアップ措置については、下記を満たすことが義務付けられています。
- 段階的かつ体系的な教育訓練
- 希望者に対するキャリアコンサルティング
派遣元企業が行うこれらの教育については、派遣社員に対し無償で提供することが定められています。また、この教育については最低限の実施時間が定められており、入社して3年間は毎年1回以上、フルタイムで週40時間勤務する場合は毎年8時間以上の教育が必要です。
派遣社員のキャリアアップとは
派遣社員のキャリアアップとは、具体的には以下などが該当します。
- 派遣社員の賃金などの処遇が向上すること
- 派遣社員から正社員として雇用されること
- スキルの向上により、より専門性の高い業務に従事すること
派遣法改正による派遣社員の教育義務化
2015年9月より施行された派遣法の改正では、派遣元企業による派遣社員に対するキャリアアップなどの教育が義務化されました。
2020年4月より施行された派遣法の改正では、派遣先企業に対し、派遣先企業の従業員と派遣社員の間で均等待遇・均衡待遇を図ることが定められました。これにより、派遣先企業でも一部の教育訓練を、自社の正社員と同等レベルで派遣社員に行うことが義務化されています。
派遣法改正による教育義務のポイント
2015年、2020年に行われた派遣法の改正によって義務化された派遣社員への教育では、下記の2点の実現が目的となります。
- キャリアアップ措置
- 派遣社員がキャリア向上を図る支援となる措置として、派遣元企業による教育が義務化されています。派遣先企業は、派遣元会社が教育訓練の実施を希望した場合には、派遣社員が教育訓練を受けられるように業務調整を行うなど可能な限り協力し、便宜を図ることが定められました。
- 派遣先均等・均衡待遇の推進
- 派遣社員に対し、派遣先の通常の労働者と「不合理な待遇差」がないようにすることを図るものです。均等・均衡な待遇を派遣労働者が得られることを目的とします。
この均等・均衡待遇を図るべく、派遣先企業に4つの努力・配慮義務が果たされており、教育もこのうちに含まれます。
- 賃金水準の情報提供の配慮義務
- 教育訓練の実施に関する配慮義務
- 福利厚生の利用に関する配慮義務
- 派遣料金の額の決定に関する努力義務
派遣先が実施すべき派遣社員の教育
改正された派遣法からまとめると、派遣先となる企業が派遣社員に対して実施すべき教育は下記となります。
業務の遂行に必要な能力を付与するための教育訓練
派遣先企業にて派遣社員が行う業務は、派遣先の企業の仕事の仕方に沿ったものです。スムーズに業務を行うため、スキルの向上や業務の手順の理解・把握のための教育を行います。
キャリアアップのための教育訓練
派遣社員のキャリアアップについては、先述の通りです。これらのキャリアアップの実現に有効な教育を行う必要があります。
派遣社員の教育で重視すべき内容
業務の内容や企業の現状によって、必要となる教育内容は変わってきます。ただし、その中でもITシステムの利用に関する知識、セキュリティを考慮した利用などのITリテラシーとIT関連スキルは派遣社員に共通して求められるスキルです。
どのような職種、職場でもITシステムの利用は一般的なものとして広まっています。派遣社員が業務を行う場合でもITシステムを利用する点については同様です。
情報セキュリティの分野でトラブルが発生した場合に、大きな被害を受けるのは派遣先企業です。このため、ITセキュリティに関する教育は、派遣社員に対しても必須の教育です。
2023年10月には、NTT西日本の子会社が受託したコールセンター業務の顧客情報などが流出する問題が発生し、大きなニュースとなりました。この問題では、NTT西日本の子会社NTTビジネスソリューションズの元派遣社員が内部不正により、約900万件の個人情報を外部流出させており、派遣社員も含めた情報セキュリティ教育の重要性を改めて認識させられるものでした。
派遣社員の教育形式
派遣社員に対する教育については、集合研修、OJT、eラーニングなどの形式が選択肢となります。教育訓練の計画に沿って、目標を達することができる方法を用いることが重要です。
それぞれの概要と、メリット・デメリットは下記の通りです。
集合研修
教育の対象者を一か所に集め、教育を行う形式です。講師などを用意し、対面で教育を行います。
集合研修のメリットは、人数を集めて研修を行うことで、複数人の対象者に一度に教育が行えるため効率が良いことがあげられます。また、対面で教育を行うため、理解度を確認しながらフォローできることもメリットとなります。他にも、教育を受ける者同士での理解を助け合えるメリットもあります。
デメリットとしては、教育の準備に手間がかかることがあげられます。教材や講師、実施場所の手配が必要です。また、教育の対象者を集合させるための調整が難しいこともデメリットです。
OJT
OJT(On the Job Training)とは、教育の対象者と一緒に仕事をする相手が業務をしながら教育を行う形式です。派遣社員の場合は、派遣先企業の業務関係者やおなじ派遣元企業の先輩社員などが教育を担当します。
OJTのメリットは、業務を行いながら教育を受けられるため、深い理解に繋げられることです。また、教育を受ける人の状況や理解度により柔軟に対応できることもメリットといえます。
デメリットとなるのは、教育の担当者の負荷が高いことです。教育の内容や成果にもバラつきが生じやすいという点も懸念されます。
eラーニング
eラーニングは、Webサイトを用いて教育の場を提供する形式です。教育の対象者は、Webサイトで教材を参照し、テストを受けることができます。
eラーニングのメリットには、教育の対象者が時間や場所の制約を受けずに教育を受けられることがあげられます。Webサイトを利用できる環境があれば、いつでも学習が可能です。また、教育の提供者側にとっても学習状況や理解度をWebで管理でき、業務を効率化できるメリットがあります。
デメリットとなるのは、Webを用いての教育のため、実技での訓練などには適さないことがあげられます。
派遣社員の教育を実施する場合の注意点
派遣社員の教育を実施する場合に、注意しておくべき点として下記があげられます。
教育訓練の内容の周知
教育訓練で行う内容については、実施の前に派遣社員に事前に周知し、同意を得ることが必要です。
派遣先管理台帳の記帳と報告
派遣先企業で教育訓練を行った場合には、教育訓練の日時や内容を派遣先管理台帳に記載し、派遣会社に報告することが義務付けられています。
まとめ
派遣元企業、派遣先企業ともに派遣社員への教育を行うことが義務付けられています。教育はキャリアアップ措置や均等・均衡の実現に向けた内容で、一部は自社の正社員向けの教育と同様の訓練をすることが基準となります。特に、情報セキュリティに関する教育はITシステムを利用する職場では正社員・派遣社員を問わずに必要で、eラーニングなどによる効率的な実施がおすすめです。
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